北海道の昆布産地 — 真昆布・利尻・羅臼・日高の海
国内昆布の約95%を産する北海道。道南の真昆布、道北の利尻、道東の羅臼、太平洋岸の日高。流れる海流と栄養塩の違いが、出汁の透明感や香りを分けています。北前船が運んだ昆布ロードと、関西のだし文化の起源までを辿ります。
日本で流通する昆布の約95%は北海道で採れています。残る数%が青森・岩手・宮城の三県(日本昆布協会)。同じ「昆布」と呼ばれていても、生育する海域の水温や潮の流れ、栄養塩の濃度が違えば、葉の厚みも、出汁の透明感も、香りの方向もはっきり分かれます。北海道を時計回りに、四つの代表産地を巡ってみます。
道南 — 真昆布
函館を中心に、津軽海峡から噴火湾(うちうらわん)沿岸にかけて育つのが真昆布(まこんぶ)です。暖流(対馬海流)と寒流(親潮)が交わる海域で、葉が肉厚で幅広く、澄んで甘みのある出汁が出ます。函館は国内昆布生産の約30%を占める最大の産地で、2017年に地元の漁業協同組合が「函館真昆布」として呼称を統一しました。京都の料亭や懐石の現場で、一番出汁の土台として古くから重用されてきた昆布です。浜の名で「白口浜」「黒口浜」「本場折浜」と呼び分ける伝統も残っています。
道北 — 利尻昆布
利尻島・礼文島・稚内、いわゆる宗谷の海で採れるのが利尻昆布(りしりこんぶ)。対馬海流の北上する日本海側に育ち、真昆布よりやや塩味があり、身は硬め。出汁は透明度が高く、上品で香りが立つのが特徴です。京都の懐石・精進料理で好まれてきたのが利尻昆布で、澄まし汁や湯豆腐のように、出汁そのものを味わう料理に向きます。寒い海でゆっくり育つぶん、旨味が凝縮するといわれます。
道東 — 羅臼昆布
知床半島の付け根、羅臼から根室にかけての海で採れるのが羅臼昆布(らうすこんぶ)。親潮(寒流)が強く流れ込み、栄養塩が豊富な海域です。出汁は濃く、わずかに黄色く濁りますが、香りが立ち、甘みと旨味の押し出しが強い。澄んだ汁物よりも、煮物や鍋、つけ汁のように味をしっかり受け止める料理で本領を発揮します。「だしの王様」と呼ばれることがあるのは、この濃度ゆえです。
道南太平洋岸 — 日高昆布
日高地方、襟裳岬周辺の太平洋岸で採れるのが日高昆布(ひだかこんぶ)。正式名称は三石昆布(みついしこんぶ)。葉がやわらかく煮えやすいのが身上で、出汁にも使えますが、昆布巻き・おでん・佃煮など、昆布そのものを食べる料理にも向きます。家庭の台所でいちばん身近な昆布、といっていい立ち位置です。
北前船と昆布ロード
北海道(蝦夷地)の昆布が関西の食卓を支えるようになったのは、江戸時代に整備された西廻り航路、いわゆる北前船によります。日本海を南下して下関を回り、瀬戸内海を経て大阪・堺へ。これが「昆布ロード」と呼ばれる流通の幹線でした。
大阪にはおもに道南の真昆布が大量に運ばれ、堺は昆布加工の集積地となります。京都には利尻昆布が好んで荷揚げされ、懐石のだし文化が育ちました。一方で、上質な昆布から先に関西で売れていった結果、江戸(関東)へは残りが回り、関東の出汁が鰹節寄りに発達した、ともいわれています。さらに昆布ロードは薩摩から琉球を経由して清(中国)にまで伸び、沖縄のクーブイリチーのような昆布料理を生むことになりました。
もう一歩先へ
同じ「昆布だし」でも、選ぶ昆布で料理の輪郭は変わります。澄んだ吸い物や湯豆腐なら利尻、関西風のうどんつゆや一番出汁なら真昆布、煮物や鍋でだしごと食べさせるなら羅臼、家庭の常備と昆布巻きには日高、というのが伝統的な使い分けです。台所の棚に二種類置いてみる、というところから、産地の違いは案外はっきり感じられます。
この記事に関連する商品
関連記事
焼津の鰹節 — 静岡が育てた日本一の鰹節産地
静岡県焼津市は鹿児島県枕崎市・指宿市と並ぶ鰹節の三大産地で、全国の生産量の約3割を占めます。弥生時代の遺跡からカツオの骨が出土した港町の歴史と、火入れを15から16回重ねる焙乾(ばいかん)技術を、一次資料からたどります。
瀬戸内・伊吹島のいりこ — 讃岐うどんを支える煮干しの島
香川県観音寺市の沖合、燧灘に浮かぶ伊吹島はカタクチイワシ漁と煮干し加工で知られます。漁場と加工場の近さを活かした島内一貫生産が、讃岐うどんの出汁を支える「伊吹いりこ」の品質を生み出してきました。
枕崎・指宿の鰹節 — 鹿児島が育てた本枯節の名産地
鹿児島県の枕崎市と指宿市山川は、国内有数の鰹節産地です。300年を超える歴史を持つ枕崎、明治期に始まった山川。本枯節(かびづけを重ねた最高級品)の生産で全国を牽引する2つの港町を、一次情報をもとに整理します。
長崎・五島のあごだし — 焼きあごが生まれた島々
長崎県の五島列島と平戸は、トビウオ(あご)の代表的な産地です。短い漁期に水揚げした魚を串に刺して炭火で焼き、潮風と陽射しで乾かす焼きあご。地域の伝統と暮らしのなかでの使われ方をまとめます。




