焼津の鰹節 — 静岡が育てた日本一の鰹節産地
静岡県焼津市は鹿児島県枕崎市・指宿市と並ぶ鰹節の三大産地で、全国の生産量の約3割を占めます。弥生時代の遺跡からカツオの骨が出土した港町の歴史と、火入れを15から16回重ねる焙乾(ばいかん)技術を、一次資料からたどります。
静岡県焼津市は、鹿児島県枕崎市・指宿市と並ぶ鰹節の三大産地です。農林水産省の統計を引いた小林食品の資料によれば、焼津の鰹節生産量は7,108トンで全国3位、3市の合計で国産鰹節の約98%を占めるとされます。なぜ駿河湾に面したこの港町が、節作りの拠点になったのかを、焼津市の公式資料や各製造元の一次情報から整理します。
焼津と鰹節の歴史
焼津市の公式資料によれば、焼津神社周辺の宮の腰遺跡からカツオの骨が出土しており、カツオと焼津の関わりは弥生時代までさかのぼるとされます。鰹節の名が文献に現れるのは江戸前期で、寛永19年(1642年)の「萬覚」に「かつお節」の語が残ります。
焼津漁業協同組合の沿革によれば、江戸時代には徳川家康から船足の速い八丁櫓の使用が許され、カツオ漁が拡大したと伝わります。江戸期から明治初期までは駿河湾内で漁獲されたカツオの大半が、鮮魚輸送網の未発達のため地元で加工され、節として全国に流通する素地ができました。明治以降は漁船の動力化と大型化が進み、漁場は遠洋へと広がります。明治36年(1903年)の第5回内国勧業博覧会で焼津の鰹節が全国一位となった記録も、焼津市の文化財解説に残ります。
製造の特徴
焼津の節作りは、焙乾(ばいかん。木の煙でいぶしながら乾かす工程)を重ねる点に特徴があります。焼津市が2005年(平成17年)に市指定無形文化財に登録した「焼津鰹節製造技術」の解説によれば、生切りは土佐切りと伊豆地切りを併用し、煮熟ののち1番火・2番火・3番火と焙乾を繰り返し、火入れは合計15から16回に及びます。カビ付けから完成まで7から8週間を要し、現在ではこの工程が鰹節の標準型として全国に普及したと記されています。
新丸正の解説資料では、焙乾を経て水分を20%以下まで落としたものを荒節と呼び、表面を削った裸節に良質のカビ菌を吹き付けて天日干しを繰り返したものが枯節、複数回カビ付けを行ったものが本枯節とされます。焼津市の文化財解説でも、青緑色の一番カビが室(むろ)で約2週間で生えてくる工程が示されています。
焼津鰹節水産加工業協同組合は2006年(平成18年)に「焼津鰹節」の地域団体商標を取得しており、認定基準を満たした製品にのみ商標の表示が認められます。なお、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度には現時点で登録されていません。
代表的な製造元
焼津には創業100年を超える節屋が複数あります。柳屋本店は明治初年創業、焼津市東小川に本社を置き、節・削り節・つゆなどを手がけます。新丸正は1935年(昭和10年)創業で、焼津市三和に拠点を構え、節とだしパック・粉末・エキスを一貫製造しています。江戸・元禄12年(1699年)創業の日本橋にんべんは、1989年(平成元年)に焼津市一色へにんべんフーズを設立し、生協向けPB品の製造などを担っています。焼津市の公式資料によれば、皇室の新嘗祭(にいなめさい)用の鰹節は昭和24年以降、毎年焼津から献上されています。
もう一歩先へ
同じ静岡県内では、西伊豆町田子のカネサ鰹節商店(1882年創業)が、手火山(てびやま)式焙乾という別系統の伝統技法で田子節を仕上げています。焼津式と田子式を読み比べると、同じ「静岡の節」のなかにも産地ごとの違いが見えてきます。だしを選ぶときは、荒節か本枯節か、削り立てかパック詰めか、そしてどの産地のどの製造元の節かを、ラベルで確かめてみてください。
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